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時系列パズル

時系列パズル

昔読んだ小説の内容は覚えていない方である。
それでも読後しばらくの間はあらすじ程度ならぼんやりと覚えているが、経年とともに内容はおろか登場人物すら忘れてしまう。本棚を覗かないと読んだかどうかさえ確信が持てない。

だから10年程前に出版された小説の脇役を主人公としたサイドストーリー的な新刊本を手にしたとき、当然前作の内容はすっかり忘れている。忘れているから、新旧作品の内容がリンクしていると核心部分の伏線は一昔前に張られたことになるので新作の謎解きの鍵は見つけられないのではないか、単なるサイドストーリーではなく本編を補完する味付けになっているのではないか、などと憶測が先行してしまう。読み手側の記憶力の問題だろうが、面白さが半減してしまうのではないかと余計な気もまわしてしまう。ましてや複数のシリーズを跨いだ共通の時系列上に成り立つストーリーとなると、もう完全にお手上げ状態である。

それは京極夏彦の小説を読んでいるときであった。
好きな作家のひとりで、細部にわたって面白さが散りばめられ、長編でも飽きさせることなく一気に読ませてしまう技量が素晴らしいと思う。
気に入っている作家にも拘らず、時代小説というだけで敬遠していた巷説百物語シリーズを、この度何故か無性に読みたくなり、久しぶりに京極小説を手にした。

このシリーズはこれまでに巷説百物語、続巷説百物語、後巷説百物語、前巷説百物語、西巷説百物語の5冊が刊行されている。妖怪話しを軸にして展開する小悪党達の活躍が実にあっぱれで、馴染みのない時代小説故に起きる読みづらさや違和感も全く感じるところがなく、江戸の時代背景や当時の語り口調なども自然に溶け込み、あっという間に全話を読み終えた。
その中で2001年発売のシリーズ第二弾にあたる連作集「続巷説百物語」の終章が、2012年発売の百鬼夜行シリーズ「百鬼夜行 陽」の冒頭を飾る「青行燈」という短編と同一の時系列を成すストーリー構成なのだ。それだけなら随分間隔の開いたサイドストーリーだなぁで済むのだが、この二作品に共通する人物は2003年発売の京極堂シリーズ長編「陰摩羅鬼の瑕」にも登場しており、「青行燈」で語られる深層心理を埋めるパズルのピースはその長編側にありそうなのだ。複雑極まりない設定である。

丹念に練られた舞台装置ではあるが、これだけ間隔が開くと人物像やオチに繋がる伏線が不鮮明になってしまい、読んでいて充分に楽しめていないのではないかという懸念が拭え切れなかった。それなら絡まった各作品を読み返せばいいのだろうが、京極作品は持っているだけで手が痛くなるほどの分厚いノベライズ版であり、読み返すにはそれなりの覚悟がいるため、思い出した気になって読み進めることにした。
さらに言うなら、この「百鬼夜行 陽」は短編なので話の繋がりはないものの、前作「百鬼夜行 陰」から13年ぶりに発表された百鬼夜行サイドストーリーの第二弾にも相当する。

初出の連載本では発表時期も近く、本編と対を成す作品だったのだろう。
時間軸に沿って精密に描写されたストーリーも、単行本が出版される頃になると、私のような記憶力のない読者にとってはその時系列が必ずしも同一線上では把握しきれないのだ。

記憶というのは曖昧なもので、残念ながらどうすることもできない。

 


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