原田知世『早春物語』

原田知世『早春物語』
発売日 1985.07.17
作詞 康珍化
作曲 中崎英也
編曲 大村雅朗

地味な歌詞・曲を救う、斬新な社交ダンスアレンジ

またしても、同名の知世主演映画の主題歌。
映画『早春物語』が、”脱・アイドル”を図るべく、知世が中年男性(林隆三)とのラブロマンスに挑んだ作品だった事を受けて、この主題歌も本編に合わせて”脱・アイドル”の意向が反映された楽曲に仕上がった。

そう言えば、この『早春物語』、後に荻野目洋子が主演したTVドラマ版(相手役・北大路欣也)というのもあった。
『おさな妻』の類も含めて、TV・映画における”中年男との恋愛”という主題は、女性アイドルのステップアップとしてお手頃なのかも。
相手役が中年なら、ファンもさほど反感は抱かないだろうし、ベテラン男優と絡む事で女優として”箔”が付くし、演技開眼も期待できるわけだから。

それはともかく、歌詞は”愛する人に逢いたいのに、逢えないもどかしさ”が主題で、アイドル歌謡にはありがちだが、英単語や造語等は一切使用せず、ごくありふれた言葉だけを用いて主題を表現した、極めて渋めの作り。
これは”脱・アイドル”を意識した戦略だと思うが、結果的には”渋い”というよりも、なぜか”地味”な印象。
 ♪逢いたくて逢いたくて逢いたくて~
という、三連コール(?)は面白くはあるが、それ以外、とりたてて目新しさが見受けられないうえに、
 ♪想う気持は海の底まで~ ♪胸の切なさ空の上まで~ と、彼氏に対する愛情の熱量を、海や空で表現するくだりも、これまでのSFチックな描写と比較すれば、文学性にも欠けるし、極めて幼稚で安易。
虚構性をなるべく排除して渋さを追求する手法も、”脱・アイドル”の狙いとしては、まぁ判らなくもないのだが、康珍化に担当させるんじゃ、もうちょっとアイドル歌謡らしい作りにしてもよかったのでは?
こういうのって、松本隆の得意分野だろうし。

まぁ薬師丸ひろ子との差別化を図る以上、おいそれと松本を起用するわけにもいかなかったんだろうけど。
「愛情物語」「天国にいちばん近い島」「早春物語」、知世の康珍化三部作は、いずれも出来があまり良くない。
もうここまで来ると、作品の出来が云々というよりも、康珍化の起用自体が、ハナっから采配ミスという気がする。
オメガの一連のヒット曲で、林哲司との相性の良さが買われての起用だったと思うが、女性アイドルでこういう仕事をするには不向きな人選だった。

曲は、前作「天国にいちばん近い島」の歌謡曲調とは打って変わって、今回はニューミュージックテイスト。
構成は「サビ→A→B→サビ」のマイナー調で、来生たかお作品にも通じる雰囲気がある。
ただ、頭サビというのは、来生作品ではあまり見られない傾向ではあるし、この頭サビという構成が、妙に歌謡曲っぽかったりするのだが。その辺りは、やはりシングル盤としてヒットを意識した構成だろう。

サビメロはそこそこキャッチーな旋律だが、サビ以外のメロディは地味で凡庸。
しかし「天国~」とは異なり、今回はメロディ展開にさほど違和感が無く、まぁまぁサビを引き立てるような作りではある。
全体のキー設定を、これまでに無く低めにしているのも、”脱・アイドル”の意図だろうが、知世にとっては、生来の音域にフィットしていて歌い易かったハズだ。
おかげで安心して聴けるヴォーカルではあるし、適度な大人っぽさがあって、悪い曲でもないのだが、サビ以外での仕掛けや起伏に乏しい分、物足りなさは否めないだろう。

地味で仕掛けにも乏しい歌詞・曲に対し、アレンジはなかなか面白い。なんと今回は「タンゴ&ワルツ」。
イントロでの多重弦楽器(?)による♪ジャンジャンジャン~ はモロにタンゴだが、歌が始まると、リズムセクションは”ズンタッター”のワルツ風。
早い話、ソシアルダンス系の要素をチャンポンしたような音作りなのだが、全然ダンサブルではない。
所々チェンバロを導入したりと、それっぽい洗練された仕掛けも施してはいるが、ギター・ベース・キーボードという楽器編成を含め、サウンドの基盤はあくまでもニューミュージック。
こうした処理のせいで、タンゴ特有の高揚感や、ワルツが醸し出す優雅さも希薄で、なかなか渋いサウンドに仕上がった。

でも、タンゴ・ワルツに偏らなかったおかげで、むしろ切ない主題にはマッチしたし、こうしたサウンドは、佐藤隆などニューミュージック系では馴染みがあるが、アイドル歌謡としては非常に斬新だと思う。
画期的なうえに完成度も高く、このアレンジは”買い”だ。

この作品、”脱・アイドル志向”を追及しすぎて歌詞・曲が地味になってしまったが、ソシアルダンス風という、個性的で秀逸なアレンジのおかげで、凡作には陥らなかった。これで普通のアレンジをしてたら、退屈な作品になってたと思う。

アレンジが作品を救ったという点では、「天国に~」と同様だが、「天国に~」がヒット狙いの俗っぽさをストイックさでカバーしたのに対し、今回は逆にストイックさを俗っぽくデコレートしたような感じで、動機としては全く正反対なのが面白い。(2000.2.25)

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