岡田有希子『くちびるNetwork』

岡田有希子『くちびるNetwork』
発売日 1986.01.29
作詞 Seiko
作曲 坂本龍一
編曲 かしぶち哲郎

良くも悪くも、彼女にとっては転機となったはず

今回は化粧品CMソングというタイアップが付いたため、話題性を重視してか、作詞に松田聖子・作曲に坂本龍一という、豪華異色スタッフを揃えた。編曲で松任谷正隆が外れ、前作で作詞・作曲を担当していた、かしぶち哲郎がアレンジを担当。
新スタッフの手により制作されたこの作品だが、有希子にとっては初の(唯一の)オリコン1位も獲得出来たほど、大ヒットになったのだから、聖子も教授も面目は保たれる結果となった。

まず曲だが、「A→B→C→A→D」という構成で、ほぼ全編メジャー調。
変則的な構成だが、頭サビのキャッチーな作りである。
曲調は、初期路線を彷彿とさせる親しみ易さだが、今回は”60sというよりは、クラッシックに近いかも。
しかし、厳粛な趣きは無く、モーツワルト風の小気味良い上品な旋律で、まぁ坂本龍一らしい楽曲である。
ただ、それだけにアクが無さ過ぎるとも言えるが、Dメロという小技がアクセントとなっていて、そんなに退屈はしない。さらに、「Love Fair」とは違って、有希子の音域にもフィットしていて、彼女にとっては歌いやすかったハズ。

CMソングに必要なキャッチーさと、春らしい軽快さを兼ね備えている上に、覚え易くて歌い易いのだから、優れたメロディと言ってイイだろう。アレンジは曲のアクの無さを生かすべく、オーソドックスに仕立てている。
リズムは普通の8ビートだし、イントロとDメロの導入部でブレイクさせてる以外は、特にリズムを変化させてるわけでもない。

間奏ではギターソロがむせび泣くものの(大したことはないが)、全体的な装飾は、コーラス・ブラス・パーカス・シンセ類を適宜加えてる程度で、ごく必要最低限である。
シンプル過ぎて物足りなくも感じるが、この上品なメロディを生かすのであれば、この程度のオカズで丁度いい按配だと思える。欲を言えば、イントロとエンディングはもうちょっと趣向を凝らしても良かったのでは?
サウンドはシンプルでも、いや、サウンドがオーソドックスな分、仕掛けは巧妙にして欲しかった。

歌詞は化粧品のコマソンらしく、主題は特に設けていない。
ちゃんとサビではお約束のタイトルコールを押さえているものの、
 ♪ほら くちびるに Network~ ♪ほら くちびるは Network~  てんで意味不明なのが、これまたお約束である。
タイトルが意味不明なのは、化粧品コマソンの常であって、別に構わないのだが、今回は描写もこれまた無意味。

 ♪ねぇ誘ってあげる ロマンティックに kissが欲しいの?~ ♪私を抱きたい そんな顔をしてるとわかる~
 ♪バカね私はすぐに堕ちたりしないつもり あきらめなさい~ ♪でも誘ってあげる ロマンティックに~
 ♪あなたいつも自分から 何も言えない じれったい・・・・~

ただひたすら、挑発的にフェロモンを振りまいてるだけなんである。
もっとも、化粧品という商品自体が女性性を象徴するものだし、コスメのコマソンでは、フェロモン描写は決して珍しくないのだが、ここまで色仕掛けに徹しているケースは他に無いだろう。 ホントに無意味。というか、これじゃ色情狂だって。

ある意味、聖子らしいって言えば、まぁそうなんだけども。にしても、前作以上にスケベだよなぁ。
「Love Fair」がムッツリスケベだとしたら、こちらはモロスケベか。
でも、モロな分、隠微さは軽減されたかもしれないが、化粧品コマソンじゃなかったら、まずアウトだろう。
有希子の歌唱も、こうしたフェロモン描写を表現しようと、今回大いに頑張っている。
ほぼ全編、ウィスパー調で歌っており、同じウィスパーだった「二人だけのセレモニー」以上に、色っぽさを醸し出すべく躍起になっている。

しかし、それでもイヤらしくは感じないのだから、ホント、彼女の清純さには頭が下がる・・・・というか、単に堅過ぎるだけかも。でも、聖子自身があの声で歌っていたら、ホントにスケベな作品に仕上がってただろう。

この作品、特にサウンド面で、これまでに無くシンプルでオーソドックスな作風なので、その点が物足りなく感じられてか、凡作と位置付ける向きが多いが、僕はそんなに悪い作品とは思わない。
無意味なフェロモン歌詞も、化粧品コマソンだと割りきれば、目くじらを立てる程でも無いし。
もっとも、タイトルはゴロが悪くてセンスに欠けるが。

ただ、この作品は、歌詞や歌唱の色っぽさ(下品さ)を、サウンドの上品さで隠蔽しているような作りで、これこそまさに「有希子の聖子化」そのものである。有希子のウィスパー唱法も、明らかに聖子を意識した代物だろうし。


もっとも、タイトルはゴロが悪くてセンスに欠けるが。
ただ、この作品は、歌詞や歌唱の色っぽさ(下品さ)を、サウンドの上品さで隠蔽しているような作りで、これこそまさに「有希子の聖子化」そのものである。有希子のウィスパー唱法も、明らかに聖子を意識した代物だろうし。

聖子の起用にしても、話題性の提供もさることながら、やはり”聖子化”の記号でもあるハズ。
「化粧品CMソング」「坂本龍一が作曲」という話題性に目が行ってしまうが、作品の本質は、聖子本人をも巻き込んだうえでの、「有希子の聖子化プロジェクト」のより一層の断行であろう。
事実、大ヒットの勢いで一気呵成にイメチェンが浸透出来たのだから(と思う)、目論みは大成功である。

なのに・・・なのに、これがラストシングルになってしまったのだ。
「有希子の聖子化」という方針に対しては賛否両論だろうが(個人的には”否”だが)、それでもこのヒットを契機に、ステップアップ出来た可能性が大きかったのだから、本当に彼女の死は惜しまれるんである。
しかも、次作「花のイマージュ」で、そのイメチェン結果の吉凶が提示される直前だっただけに、余りにタイミングが悪すぎる。まぁ人の死にイイ頃合いなんて無いんだけど。

しかし、この頃になると、彼女が既に精神的に病んでいる事は、TVを観ていても充分に感じ取れた。
休業直前時の華原朋美にも通じる、あの生気の無い、ボーッとした姿のままTVに出てたし、発言も的を得ない事が多かった。それどころか、もうルックスそのものが、半年前とは別人になってしまった感がある。
それは、単なるイメチェンの枠を超越した変貌で、顎は細く尖り、眼に勢いは感じられず、なんだか寺田理恵子みたいだった。

こうした外目にも明らかな異常ぶりも、イメチェンによって逆に目くらましされてしまった感があり、そう考えると、今回のイメチェンは”功罪相半ばする”か。改めてご冥福をお祈りします。(2000.6.16)

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