岡田有希子『哀しい予感』

岡田有希子『哀しい予感』
発売日 1985.07.17
作詞 竹内まりや
作曲 竹内まりや
編曲 松任谷正隆

作家の弱点が露呈した、中途半端な”ロック歌謡”

編曲は前作同様、松任谷正隆が担当しているが、作詞・作曲は尾崎亜美が外れ、竹内まりやに戻された。
三部作で竹内作品は完結したかと思いきや、再びの回帰なわけだが、その理由が今一つよく判らない。
前作での勇み足とも思える、急ピッチなアダルティ展開に対する見直しがあったのだろうか?
いささか”聖子モドキ”だった、前作への反省で。

それ故に、アイドル路線への回帰・オリジナリティの追及する必要性を感じて、今回再起用したのだろうか?
それはともかく、作家を替えただけのことはあって、あらゆる面で、前作とは異なる作風である事は確かである。

まずは曲だが、「A→B→C→A」という前作と同じ構成で、しかも、同様の頭サビ形式ではあるが、調性は正反対のマイナー調で、今回はちゃんと高音域で聴かせるサビメロにしている。
それから曲調も、前作はニューミュージック調だったのに対し、今回は純然たる歌謡曲調。
凄くキャッチーだし、覚え易くて歌い易い旋律なのだが、それにしても、洋楽志向な竹内作品の中で、ここまで歌謡曲然としたメロディは珍しいと思う。後の「駅」「シングル・アゲイン」以上に歌謡曲っぽいし。でも、決して悪い曲ではない。

アレンジも前作とはテイストが異なり、今回はエレキギターを効かせたロック調サウンドで、これまでに無くダイナミックな音作りである。
ただし、ロック調とは言っても、ブラスが強調されているし、適宜ストリングス・シンセ類が導入されたりしていて、あまりバンドっぽくはないが。

イントロでのギター・ブラスの旋律は、フィリップ・ベイリー&フィル・コリンズ「イージー・ラヴァー」を彷彿とさせるが、全体として洋楽センスはさほど感じられず、言うなれば”ロック歌謡”なる趣きに仕上がった。
ただし、これまでサウンドに関しては、一応”ハズレ無し”の完成度を誇った有希子作品だが、今回は出来があまり良くないかも。全体的にシンプル過ぎて、オカズが少なすぎるのだ。
有希子の物静かな個性とズレる事を懸念して、あまり派手には仕立てなかったのだろうが、結果として”ロック歌謡”としては物足りない中途半端な印象になってしまった。狙いが仇になったか。

抑えのBメロ以外では、もっとパーカスやストリングスのオカズを加えるなりして、よりスリリングに、よりドラマティックに仕立てたほうが良かったのでは?
間奏のギターソロもしっくり来ない旋律なうえに、コーラスワークにも大した工夫が見られず、エンディングの終息も凡庸だし。

さらに、今回は歌詞の出来もあまり良くない。タイトルからも察しが付くように、今回のテーマは”失恋”で、

 ♪お願いよ本当の事 打ち明けてほしい~ ♪眠れない夜が続き 哀しい予感に揺れてる私~
 ♪二度目の夏が過ぎた頃 あなたは突然変わったの~ ♪電話の声も少し冷たい~
 ♪お願いよ噂なんか 嘘だと言ってね~ ♪私だけ愛してると 誓った言葉を信じたいから~
尾崎作品とは違って、哀しい予感の背景や根拠も判り易く綴っているものの、
 ♪好きよ 好きよ こんなにも好きよ~ ♪風に散った私の初恋~

描写は凡庸極まりなく、しかも、2番に至っては
 ♪心と心離れたら 友達でさえもいられない~ ♪なんて淋しい季節の始まり~
どうにもゴロが悪いんである。
“まりや三部作”で示した、流麗なストーリー展開も無く、
 ♪お願いよせめて家に辿り付くまでは~ ♪繋がれた指と指を離さないでいて 泣きそうだから~

こんな陳腐なフレーズを、2度も繰り返してしまうという体たらく。
とにかく今回の歌詞は、判り易いのだが、平凡で退屈極まりないのだ。

一体どうしたと言うのだろう?竹内のアベレージからすれば、ちょっと信じ難いレベルの低さなのだが。
おそらく竹内は、テーマが特殊だったり、表現に制約が多いほうが、イイ詞が書けるタイプなんだと思う。

「けんかをやめて」「Invitation」「ファースト・デイト」「恋、はじめまして」、そして後の「色・ホワイトブレンド」と、彼女が生み出す傑作は、いずれも個性的な主題だったり、CM絡みで制約がキツかったりするケースばかりなのだから。

確かに、物語の背景・状況・人間関係等を判り易く描写するという、彼女の特技(特性)は、ある程度狭い範囲内で、それも具体的な対象に絞ったほうがが生きてくるハズである。

これが今回のように、”失恋”という漠然としたテーマになると、フィールドがあまりに広すぎて、対象が分散されてしまい、どこに的を絞って描写すればイイのかが難しくなるんだと思う。
“初恋の終焉”というオプションは付くものの、それでも先述の傑作群と比べれば広範囲だ。
これと言った人物設定も無いだけに、十八番の”自意識過剰”も、あいにく今回は発揮する場面が無いし。

おかげで、創作エネルギーが消化されずに、能力を持て余してしまって、陳腐な繰言をかましたり、描写が平凡だったりするのだろう。そう言えば、まりやはコレに限らず、テーマが漠然としたものだと、大抵歌詞はつまんない事が多いのだ。

そういう場合は、英語詩をふんだんに取り入れて、凡庸さを隠蔽してしまい、一種BGMとして機能させるパターンが常套なんであるが。さすがに有希子相手じゃ、英語ばっかり使うわけにもいかないか。

その点が、まりやと松任谷由実・中島みゆきとの大きな違いである。
ユーミン・みゆきは、たとえテーマが漠然としたものであっても、取り止めの無い感情・状況を、詞的に上手くまとめてしまうもんなぁ。やっぱり、両者のライティング能力は、女性アーティストの中でも傑出していると思う。

この作品は、竹内の作詞家としての弱点が露呈してしまった作品であり、しかも、アレンジも中途半端で、あまりイイ出来とは言えない。佳曲ではあるし、有希子も初の”ロック歌謡”を上手く歌いこなしているんだけど。

もっとも、サウンド・歌詞の両面で、前作を支配していた”聖子臭”は皆無なので、「聖子色を一掃する」という一応の目的は、とりあえず達成されたか。・・・って、ホントにそんな目的があったのかどうか、知る由もないんだけど。(2000.6.16)

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