河合奈保子『ラブレター』

河合奈保子『ラブレター』
発売日 1981.12.05
作詞 竜真知子
作曲 馬飼野康二
編曲 若草恵

80年代アイドルの中では最優秀歌唱賞レベル

これは傑作だと思う。
曲・歌詞・アレンジ、全ての面で合格点だが、なんといっても一番の魅力は河合奈保子の歌唱である。
「17才」で開花した”グルーブ歌唱”が、この作品では全編に冴え渡る。

曲作りも、そうした彼女のグルーブ感を引き立たせる作りをしている。
「17才」で、サウンド面において「高音域」「アップテンポ」の両条件が揃うと、彼女特有の”ハネる”唱法に拍車がかかり、その過剰さがグルーブに変質することが立証されたが、ここではそうした特質を全面に押し出しているのだ。頭サビからいきなり高音域。「17才」を上回るハイ・キーだ。
歌い出しに入ってからも、「ヤング・ボーイ」のような低音域にはシフトせず、せいぜい中音域に留めている。

アレンジも全編に渡ってアップテンポ。
ギター・ストリングス・ブラスを主軸にした音作りは、「17才」「スマイル・フォー・ミー」を踏襲しているが、リズムセクションをよりスピーディーに、よりタイトにしたことで、一層の緊張感・切迫感が引き出すことに成功。

イントロでのハードなキーボードの旋律とベースの掛け合い(?)もなかなかだし、ブラスで徐々に盛り上げていく終盤部分、ストリングスの見事なオーケストレーションで締めくくるエンディング、いずれもカッコイイ。

歌詞は彼女には珍しく「片想い」をテーマにしている。
なんといっても、♪ためらいらいらいラブレター~ のインパクトが大きいが(すごい歌詞だ)、内容はラブレターとは全く関係無いのがミソ。具体的に恋文をしたためる記述なぞ、どこにも出てきやしない。

それはともかく、これほどハードでスピーディーなサウンドに乗せて、「片想い」という粘着質な主題(?)を歌い上げる作品というのは、歌謡界全体を見渡しても、これまであまり無かったように思う。
しかし、緊張感・切迫感を伴ったアレンジが、彼女のグルーブ歌唱と相俟って、「片想い」の閉塞した心理状態を、一種のピュアな激情として昇華することに成功しているのは、特筆すべき美点かも。

かように、この作品は彼女特有の”グルーブ歌唱”を目いっぱい引き出すことに成功した傑作である。
しかし、奈保子の歌唱も、こうしたグルーブ感のみならず、サビでの♪好きです 言えないけど~ を2回繰り返す部分では、それぞれカラーを変えて歌いこなしているのもスゴイ。
1回目の♪好きです~ では、「相手に伝えたい自分の胸の内」を激しく歌い上げるのに対し、2回目の♪好きです~ では、「でも伝えられない空しさ」を表現すべく、抑えた歌唱にしている。
「ヴォーカリスト・河合奈保子」の実力を十二分に堪能できる作品だ。

余談だが、前作「ムーンライト・キッス」の頃、彼女はNHKでの収録中、高所から落下して大怪我を負った。
で、この「ラブレター」で腰にコルセットを巻きながら、彼女は歌番組に復帰したのだが、その痛々しい姿と作品の切迫感が絶妙に相俟って、いつにない感動をTVを通してお茶の間に伝えてくれたのが、この「ラブレター」だった(親衛隊を従えて華々しく復帰をアピールした、『夜ヒット』がベストアクトか)。

僕のように、当時歌番組を熱心に観ていた世代にとって、このインパクトは大きく、「ラブレター」を彼女の代表作に挙げる人は結構多い。
それにしても、怪我が完全治癒していないのに、ローテーションを変えることなくシングルリリースしてしまう、当時のアイドルシステムは壮絶だ。さしく「THE 芸能界」「アイドル残酷物語」。(1999.12.17)

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