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石坂智子『デジタル・ナイト・ララバイ』

石坂智子『デジタル・ナイト・ララバイ』
発売日 1980.09.21
作詞 伊藤薫
作曲 伊藤薫
編曲 大村雅朗

歌手ならではのソングライティング術が冴え渡る傑作

先日、田中美佐子「スペインへ行きたい」を取り上げたが、それ以外にも『お・し・え・て・アイドル』シリーズには興味深い音源が幾つも収録されており、この「デジタル・ナイト・ララバイ」も、そんな筆者の琴線に触れた一曲である。

石坂智子といえば、連ドラ『ただいま放課後』の主題歌だったデビュー曲「ありがとう」が有名だが、2曲目の今作も、1980年の新人賞レースでちょくちょく披露していたおかげで、割りと耳馴染みのある作品だと思う。
てか、これは一度聴いたら忘れられない、妙にインパクトのある楽曲なのだが。

作詞・作曲の伊藤薫はシンガーソングライターで、欧陽菲菲「ラブ・イズ・オーバー」の作者として有名だが(伊藤も競作)、甲斐智枝美・香坂みゆき等、アイドルにも多数楽曲提供している。
曲構成は「A→A”→B→C→A”」で、全編マイナー調のごくありきたりな代物だが、メロディ自体は非常に独特。

というのも、同一音符を淡々と刻む完全音程がベースという、アイドル系ではあまり類を見ないタイプなのだが、要所要所でブレイクを設けている上に、高音でのアクセントも随所に加えて、かなりパンチやフックの効いた旋律に仕上げており、決して単調ではない。

下手すると”お経”っぽくなりがちなのに、かような起伏に富ませる工夫は、作曲術としてハイレベルであろうが、今作はビートルズ「You Never Give Me Your Money」を元ネタにはしてると思う。
結構有名な話だが、実際Aメロはソックリ。

で、今回の楽曲制作は、おそらくタイトルが先に決まっていたのだろう。
過程としては、「今時代はデジタル → 機械的な規則性 → 淡々とした旋律 → 『You Never Give Me Your Money』 → (何気に唄ってみて)♪デジタルナイトララバイ~ → あ、ピッタシ(^_^) 」ではないかと推測できるが(やれやれ)、伊藤って、同じパクリ作家の筒美京平のように、頭で曲作りするタイプではなく、本来は平尾昌章のように、感性で曲作りをするタイプだと思う。

いわゆる”天性のメロディメーカー”ってやつだが、今作も明確な元ネタ・コンセプトこそあれど、そのAメロを軸に、後の残りを感覚的に紡いでいったような按配なのだ。

普通は「ここで高らかに盛り上げよう」「ここでトーンダウンするとサビが引き立つ」だの、展開に何かしら人工的な計算や作為が見えるものだが、コレにはそういう類の強引さが希薄。
要するに、唄ってみて曲展開に全く違和感が無く、流れが自然で非常に歌い易いのだが、これは伊藤自身が歌手でもある事に起因するのだろうか?

そういや平尾昌章も歌手上がりだし、歌手である井上陽水の曲作りにもかような傾向が伺えるもんなぁ。
やっぱり歌い手の曲作りって、純職業作家とは一線を画す”何か”があるな。

こうした個性は、実際に石坂の歌唱を聴けば一目(聴)瞭然。
今回、ドスの効いた迫力ある歌唱(あくまでも”アイドルとしては”だが)を聴かせてくれるが、元々歌の上手い人ではあるものの、否が応でも歌唱に力が入るような曲作りを伊藤がしていると思う。
だって唄い出しからして、いきなり一拍置いての♪(んっ)デジタルナイトラーラバーイ~ だし。
この”溜め”はデカいだろう。

これ以外にも♪似合わないのよ (んっ)さまにならない (んっ)過去も未来も (んっ)夢物語~ と、完全音程でメロディが単調になりがちな所で、かようなブレイクを設けているが、このブレイクが”溜め”となって、単調なメロに起伏を持たせる上に、パンチのある歌唱としても活きてくるんである。

あと、♪Touch 抱かれ そして Cry 泣いて~ といった唐突な高音アクセントも、完全音程の後に続く事で歌唱にメリハリを与えるわけで、これらの細工も、やはり歌手ならではの感性だと思う。 だって唄ってて気持ちイイもの。
この手の仕掛けって。 作者自身が実地で唄いながら曲作りしないと、かような手応えは実感として得られないだろう。

もっとも、石坂の歌唱はスパークするだけではなく、♪背中に回す指先あやしい~ など大人な描写の部分では、しっとりとした色香を醸し出しいるし、ラストの♪どうすればいい どうすればいい どうすればいいの~ ではフレーズ毎に情感を高めて盛り上げて行ったりと、まぁまぁ表情豊かである。

歌詞の主題は「大人びたアバンチュールに戸惑う、勝気でウブなお姐ちゃんの心模様」で、曲に見合ったテーマだと思うが、描写は凡庸。
A”のリフでこそ、♪あなたにすれば one night わたしにすれば first night ~ といった、ユーミンもどきな心憎いフレーズが出てくるものの、A”メロでは、♪思い違いのロンリーダンス 遊び上手なロンリーボーイ ~ なんつーワケワカな事を綴ったりして、全体としては雰囲気重視の無意味な描写が多いのだ。
唄っててゴロが良ければそれで良し!みたいなノリで。

まぁ実際、全編に渡ってゴロ的に違和感は無いが、この手の「文芸度 < ゴロの良さ」な作詞術も、やはり歌手的な仕事ではある。 それにしても、デビュー1年目の新人アイドルに、この手のスリリングなラブ・アフェアは時期尚早だと思うが。

前作「ありがとう」が、これまた極端にピュアだっただけに、イメージの落差が凄いのだが、ヤンキーっぽい大人びたルックスの石坂には、こっちのほうが合ってるとは云える。

大村のアレンジは、伊藤の曲・詩に忠実に追従している。
イントロ等にシンセのピコピコ音を導入したり、Aメロではラテンパーカッションによる規則的なリズムを刻んだりと、タイトル通り、デジタルチックなムードを醸し出すべく努力してるし、例の”溜め”部分でも、シンバルやバス系のタムをオカズに加えたり、ストリングスで繋いだりと、ブレイクにインパクトを与える工夫も凝らしている。

ただ全体的には生音系楽器がメインで、さほどデジタルチックでは無い。
中近東風なストリングスのオブリガートと、ドラムスとパーカッションによるリズム隊を全面に押し出す辺り、アレンジの基盤はディスコ調で、ノリの良い主旋律を生かす手堅さである。

この作品、当時の流行だった”デジタル”にこだわり過ぎて、タイトルやコンセプトはかなり痛いのだが、メロディが単調ながらも随所にメリハリが利いていたり、詩も描写が平凡ながらもゴロだけは良かったりと、伊藤のソングライティング術にシンガーならではの資質が随所に垣間見えるのが非常に興味深い。

詩の凡庸さとパクリ具合に眼を瞑れば、全体的に個性的かつハイレベルな楽曲で、石坂の歌唱も合わせて、かなりの傑作だと思う。

しかもこれは、勝気ながらも揺れ動く主人公といい、単調ながらもノリの良いメロディといい、後の中森明菜「飾りじゃないのよ涙は」とも共通する手法で、そういう意味でも重要かもしれない。
まぁ歌詞で「文芸色&キャッチーさ」をキチンと両立させてる陽水のほうが、技量としては明かに格上なのだが。(2001.05.05)

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