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奥村チヨ『北国の青い空』

奥村チヨ『北国の青い空』
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発売日 1967.08.05
作詞 橋本淳
作曲 ベンチャーズ
編曲 川口真

ベンチャーズらしからぬ”低エレキ度数”で曲の良さが表出

「ごめんネ…ジロー」でブレイクを果たした奥村チヨであるが、名は上げたもののヒット連発とはいかず、2年後に発売された「北国の青い空」で、ようやく再ヒットの陽の目を見た。
鳴りを潜めた流行歌手が再び前線に返り咲く場合、往々にして代表曲とは違ったイメージでカムバックすることが多いが、奥村もご多聞に洩れず、この「北国の~」は「ごめんネ~」とは全く異なる作風である。
まぁカムバックと銘打つほど、低迷してたわけでもないんだろうけど。

作曲はなんとベンチャーズで、原題が「Hokkaido Skies」(!)という、要するにカバー盤である(ですよね?書き下ろしじゃないと思う)。
構成は「A→A”→B→A」のマイナー調で、「雨の御堂筋」「京都の恋」「二人の銀座」等、いわゆる”ベンチャーズ歌謡”の典型パターン。
曲調もベンチャーズ歌謡の例に違わず、ドメスティックな歌謡曲調で、カバー盤であるにもかかわらず、オリジナルだった「ごめんネ~」以上に歌謡曲っぽい旋律。

ただし、テンポは先述の諸作品とは異なり、ビートニックでは無くスローバラードである。
ベンチャーズ歌謡でバラードとは珍しいが、旋律自体は音域が広いうえに、音程のアップダウンが激しく、Bメロでのいきなりハイキーで盛り上げるくだり等、「やはりギタリストが作ったメロディだな」という雰囲気は漂う。
譜割りが大きく、どちらかと言えばギター演奏向けで、あまりヴォーカル向けの曲ではないと思うが、それにしてもイイ曲である。

ベンチャーズ歌謡は名曲揃いだが、いずれもビートに頼った曲作りをしている中、コレはビートに頼らずともメロディ自体が素晴らしく、白眉の出来だと思う。
覚え易くてキャッチーだし、日本人好みの哀愁も漂わせて、文句の付けようが無い。

「二人の銀座」に続き、ベンチャーズ歌謡のヒットとしては2作目であるが、「二人~」以上に、歌謡曲というものを咀嚼している印象。それにしても、一体コレのどこが北海道なんだろう?
大らかな譜割が北海道の雄大さとシンクロしなくも無いけど・・・
60年代の北海道って、こんなに物悲しいイメージだったのかなぁ?他にも「霧の摩周湖」とかあったし。

別にベンチャーズも北海道をイメージして曲作ったわけじゃないだろうし(おそらく日本自体をイメージ)、どうせタイトル後付けだろうから(たぶん)、日本国内ならどこでも良かったんだろうけど。

歌詞は「空」「湖」「野バラ」をモチーフにして、一人の女が北国を舞台に悲恋に浸る様子を描いている。
原題の北海道(の自然)と、物悲しい曲調を上手く折衷したような感じだが、内容はテキトー。
深い意味は無いけど、曲が短くストーリー展開もしづらいだろうから、まぁこんなモンだろう。

主題は純愛悲恋なのに、奥村の歌唱は主題とは逆座標に官能的なのが見所。
♪かぁぜぇんにぃぃんまっかぁれったぁぁ(風に巻かれた)~ あんなったんのぉぉかぁみぃにぃぃ(あなたの髪に)~ と、必要以上に”泣き節”が炸裂していて、歌い出しからアクセル全開。
主題からすれば、普通に歌ったほうが理に適ってるハズなのに、何故にこんな調子で最後まで押し通すのかが不思議である。

で、色々考えてみたのだが、これは官能の表現ではなく、エレキギターの”泣き”をヴォーカルで表現してるのではなかろうか。
というのも、先述のように、この曲はヴォーカルよりもギター演奏向けの楽曲なので、ただ普通に歌うだけでは作品として物足りないだろう。それゆえに、ギターの代用としての”泣き節”ヴォーカルではなかろうか?
そう解釈すれば、この矛盾にも納得が行くのだが。
大人への脱皮という目的だったら、楽曲そのものをアダルティにすればいいわけだし。

事実、アレンジも、この独特な歌唱を邪魔しないよう配慮されている。
イントロこそスリリングでインパクト大だが、ベンチャーズ歌謡とはいえ、エレキギターは前奏・間奏でソロがある程度で、あとはほとんどフィーチャーされてないし、ストリングス・キーボード類、リズムセクション等、いずれも必要最低限で、特に趣向は凝らしていない。

変わった点と言えば、♪ヒュゥゥ~ンという、ホラー調の不気味なオカズが随所に流れる程度で、あくまでも奥村の歌唱を引き立て役に徹したアレンジなのだ。
♪恋よ~ 恋よ~ では、ヴォーカルを二重構成に仕立てて、しっかり歌声を”聴かせる”細工もされてるし。

でも、サスガ引き立てられるだけあって、奥村の歌唱は見事である。
音域が広くアップダウンも激しい曲なのに、音程は崩れないし、これほど奔放に泣きを多用しながら、滑舌は明瞭で声量も豊かなのだから。

エレキ歌謡の名作として名高い「北国の~」であるが、サウンド面でのエレキ度数は低く、ベンチャーズ名義がなければ、エレキ歌謡として成立すらしないだろう。ベンチャーズブランドに目くらましされてしまうが、魅力の本質は優れたメロディラインと、独特の歌唱である。
まぁこの歌唱にしたって、所詮はメロディを生かすべく計算された演出だろうし、やはり曲の良さがダントツ!

奥村もこの独特な歌唱の成功により、後の「恋の奴隷」等、お色気路線の布石となったのは確実だろうし、ベンチャーズにとっても、この成功により、ヒットメーカーとしてのステイタスが確立されたわけで、この「北国の~」は両者にとって転機となった重要作と言える。1967年作品。(2000.8.8)

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